Jewel Teeth

童話「乳歯の宝石」
-仲良し双子と歯の妖精たちとの物語-

» 1章 はじまり、歯のおまじない

» 2章 妖精との出会い

» 3章 妖精とともだち

» 4章 妖精の国と乳歯の宝石

» 5章 お別れその後、おわり

1章(はじまり、歯のおまじない)

あるところに、仲良しの双子がいました。
二人はどこに行くにも、何をするにもいつも一緒。

家族仲良し、おいしいご飯。
夕飯にはママが作ってくれた、おいしいパンを食べています。

あれ?なんだか今日は、少しさわがしいみたい?

女の子
「ねぇママ。わたしの歯なんかへんだよ。ずっと、むずむずしているの。」

男の子
「ねぇパパ。ぼくの歯、ぐらぐらするよ。ぜったいどこか、おかしいよ。」

なにやら双子は、歯の様子がおかしいと話しています。
心配したママが、やさしく聞き返しました。

ママ
「あら、どうしたの?口の中をよーく見せて?」

あーん
双子が大きく口をあけた、その時です。

ぽろっ。ぽろっ。ころんっ。
二人の小さな歯が、ぬけ落ちてしまいました。

男の子
「あーっ!ねぇパパ、ぼくの歯とれちゃった!」

女の子
「えーん、ママ。わたしの歯なくなっちゃう!」

パパ
「あっはっは。心配しなくてだいじょうぶ。」

「子どもの歯がぬけたら、次はおとなの歯が生えてくるんだ。
よしよし、立派な歯が生えてくる、おまじないを教えてあげよう。」

「いいかい?上の歯がぬけたら、地面に向かって。
下の歯がぬけたら、屋根にむかって投げるんだよ。」

ママ
「あら?ママの知ってるおまじないとは少し違うみたい。」

「ぬけた歯は、ベッドの側に置いておくのよ。
そしたら、妖精さんが持っていってくれるんだから。」

「うふふ。それじゃあ二人は、どっちのおまじないを、ためしてみたい?」

ママとパパは、ふたつのおまじないを、教えてくれました。
二人は、いったいどっちを選ぶのかな?

男の子
「ぼくは、つよい歯が生えるように、屋根の上に投げたいな。」

「おもいっきり、たかくたかーく投げるんだ。」

パパ
「よしきた!じゃあ、パパと一緒に投げに行こう。
もう外も暗くなり始めているからね。さぁさぁ急いで行かなくちゃ。」

女の子
「わたしは、妖精さんに歯をあげたい。」
「ねえママ、ベッドの側に置いてていい?」

ママ
「もちろんいいわよ。じゃあ一緒に、ベッドに持っていきましょう。」
「きっと可愛い妖精さんが、取りに来てくれるわ。」

パパとママの教えてくれた、特別なおまじない。
歯がぬけたのはビックリだったけど、二人は、すっかり安心して眠りにつきました。

2章(妖精との出会い)

すーすー、すやすや。すーすー、すやすや。

ぐっすり眠る双子たち。
もう、すっかりみーんな真夜中になって、みんな寝静まっています。

あれ?なんだか、だんだん声が近づいてくるような・・・。


「あっ、ムム見て見て。あそこにあるよ!」


「ほんとだ!ミミ、早い者勝ちだぞ。それ急げー。」


「あっズルい!返して、ミミが先に見つけたの!」


「やめろよ!ムムが先に拾ったんだぞ!」

とつぜん、現れたさわがしい生き物たち。
その姿はまるで、子ねずみのような、子ねこのような・・・。
あーあー大変。なんだかケンカを始めちゃった。
あんまりうるさいので、双子たちは目を覚ましてしまいました。

女の子
「んー、むにゃむにゃ、眠たいよ。まだ朝じゃないのに、うるさくしてるのは、いったい誰?」
「ん?あれっ⁉もしかしてあなたたち、妖精さん?」
「わたしの歯を、取りに来たの?」

男の子
「ふぁーああ。もーうるさいな。夜は静かにしなさいって、パパに言われてるでしょ。」
「君たち、いったいどうしたの?そんなにケンカなんかして。」

双子たちは、その小さな生き物に、やさしく話しかけてみました。
彼らは、少し驚いたように顔を見合わせましたが、双子たちに答えてくれます。

ムム
「そうだよ。ムムは歯の妖精。人間なのに、よく知ってるね。」
「ミミと一緒に、いろんな生き物の歯を、集めてるんだ。」

ミミ
「そうなの。だけどいつもムムが、ミミの見つけた歯をとっちゃうの。」

ムム
「違うよ!ムムが先に拾ったんだから、ムムのだぞ。」

ミミ
「なによ!この前もそうやって、ミミの見つけた歯を、とっちゃったじゃない。」

あらあら大変。またケンカが始まっちゃった。
あわてて、声をかける双子たち。なんとか仲直りさせようと提案します。

女の子
「あーわー、ケンカしないで、あなたたち。」
「んーと、えーと。私の歯をあげたいけど・・・。あなたたち、なかよく分けられない?」

男の子
「あっ、そうだ!ぼくの歯が外にあるよ。」
「おまじないで、家の屋根に投げたんだ。それを君たちにあげるよ。」

ミミ
「えっ、ほんと⁉わーい、ありがとう!あなたたちって、やさしいのね。」

ムム
「それじゃあ、すぐ取りに行こうよ。一緒にきてくれるでしょ?
ねぇねぇ、どこどこ?はやくはやく!」

男の子
「もちろんいいよ。それじゃあ、ぼくの後についてきて!」

女の子
「しーっ!ちょっとみんな。ママもパパも寝てるのよ。
・・・起こさないように静かに行かなきゃ。」

屋根の上に投げた歯を、思い出した双子たち。
これなら妖精たちも、仲直りしてくれそうです。
二人は、妖精たちを手のひらにのせて、そーっと家の外に出て行きました。

3章(妖精とともだち)

男の子
「あそこだよ。パパと一緒に、あの屋根のところに投げたんだ。」

女の子
「暗くてよく見えないね。それに私たち、あそこまで手が届かないし・・・。
どうしよっか?困ったね。」

ミミ
「そんなことなら、大丈夫!ほらほら見て見て、私の背中。」
「私たち、お空だって飛べちゃうんだから。

月明かりに照らされて、ミミは、かわいらしい羽をパタパタさせています。
そんな話の途中、もう我慢できないぞとばかりに、ムムがひとり飛び出していってしまいました。

ムム
「おいミミ、早い者勝ちだぞ!それ急げー。」

ミミ
「あっズルい!ちょっと待ってよムム。」

あっという間に、屋根まで飛んでいってしまったムム。
はやく歯を見つけようと、夢中であたりを探します。
ミミは自慢の羽を見せ終えると、ちょっと遅れて屋根のほうへ飛んでいきました。

ムム
「あっちかな?こっちかな?・・・あれあれ?そっちの白いのは?」
「やったやったー、見つけたぞ!やっぱり、この歯もムムのだぞ!」

男の子
「あー危ない!ムム後ろーっ!」

ムム
「えっ⁉︎あっ・・・。」

ムムが歯を抱えあげたその時です。
後ろから、そーっと忍び寄っていた猫が、今にも飛びかかろうとしています。
ムムは怖さのあまり、動けなくなってしまいました。

女の子
「ムム、逃げてーっ!」」

ひゅーっ
少し遅れてやって来たミミが、猫めがけて、いきおいよく飛び出しました。

ミミ
「えいっ!」

一瞬、猫がひるみます。
再びムムに飛びかかろうと、かまえなおした、ギリギリのところでした。

ガシっ

ミミがムムの肩をガッとつかみ、そのままクルッと飛び去ります。
ふー、あぶなかった。
ミミもムムも緊張で、まだ体がふるえています。

ミミ
「お・・・重たい。もうだめ。」

ムム
「あわわっ・・。」

ミミの力だけでは、ムムの体を支えきれません。
バランスを崩した妖精たちは、今度は地面に真っ逆さま。
あぶない、このまま、ぶつかっちゃう!
ミミとムムは、ギュっとまぶたをつぶります。

すると、その瞬間、妖精たちの体がふわっと何かに包まれました。

男の子
「ふー、あぶなかった。大丈夫だった二人とも?」

ミミ
「はー、こわかった!ふふ、まだ手がふるえてる。
でもミミ全然へっちゃらよ!」

妖精たちはもう少しで、地面に落ちてケガをしてしまうところでした。
そのギリギリのピンチを救ったのは、下で待っていた、双子のナイスキャッチ。

女の子
「すごかったよ、ミミ!よく、あんな大きな猫の前に、飛び出せたね。」
「ムムの方も、ケガはない?」

ムム
「・・ぐすん。・・・ありがとう。」
「みんな、助けてくれた・・・。」
「ムムが、ズルしたのに・・・。歯をひとりじめしようとしたのに・・。」

「えーん。えーん。」

男の子
「ムム、そんなの気にしないで。」

女の子
「もう大丈夫だから、泣かないで。」

ミミ
「ミミとムム、ともだちでしょ。
困ったときはいつでも助けなきゃ。」

ミミはやさしく、ムムの背中をなでました。
みんなの言葉を聞いて、ムムの顔が少し明るくなります。

ムム
「うん。・・・みんな、ともだち。」
「ミミ、これあげる。」

それまで抱えこんで、ぜったいに離そうとしなかった大切な歯を、ムムが差し出してきます。

ミミ
「えっ!︎これ、ミミに?ほんとにほんと⁉もらっていいの?」

ムム
「うん、いいよ。これでムムもミミも、ひとつずつ。」

ミミ
「わーい、ムムありがとう!」

みんなは力を合わせてピンチを切り抜けました。妖精たちも、双子たちも大喜び。
これでもうすっかり、みんな仲良しともだちです。

女の子
「よかったね、ミミ。これでもう、あなたたち仲直りよ。」
「ムム。これからは一緒に仲良く、歯を集めてね。」

男の子
「ねぇ、みんな。そろそろお部屋に戻らなきゃ。」
「ほんとは、勝手にお外に出たらいけないし、また猫がきたら危ないよ。」

すっかり仲良くなった妖精たちは、双子のあたまにのりました。
ママとパパを起こさないように、またお部屋までそーっと戻ります。

4章(妖精の国とカラベアの宝石づくり)

明かりもなく、ほとんど真っ暗な家の中を、そーっとそーっと進みます。
なんとかお部屋に戻ると、みんなはベッドに座りました。

女の子
「そういえば、あなたたち、どうしてそんなに歯を集めてるの?」

ムム
「妖精の国に、持って帰るんだ。カラベアが、歯をたくさん欲しがってるから。」

男の子
「カラベア?」

ミミ
「うん。ミミとムムの、おともだち。」
「カラベアは、歯の宝石を作ってくれるんだよ。」

女の子
「わー、すてき!いったい、どんな宝石を作ってるのか、見てみたい。」
「もしかして、わたしたちの歯、きらきらのピカピカになっちゃったりして⁉」

男の子
「すごーい!ぼくたちの歯が、宝石になるなんて!」
「それに妖精の国って、どんなとこなんだろう?ぼくも行ってみたいなー。」

どうやら妖精たちは、宝石づくりの材料にするために、歯を集めているようです。
自分たちの歯も、宝石になるかもしれないと知り、二人は妖精の国に行ってみたくなりました。

ムム
「うーん・・。ほんとは内緒なんだけど・・、二人には教えてあげる。」
「あのね、妖精の国は夢の中にあるんだよ。」
「でも人間はいじわるするから、入っちゃダメって決まってるの。」

ミミ
「あら、二人はいじわるしないでしょ。」
「そうだ!ねぇムム。二人のことを夢の中に、むかえに行きましょ。」
「それからカラベアのところに、連れてってあげようよ。」

ムム
「うん!二人はともだちだから、連れていきたい。」
「じゃあ、ムムが声をかけるまで、二人ともベッドで目をつぶって待っていて。」

女の子
「わーいわーい!ありがとう!」

男の子
「わかった。ぼくたち、ムムとミミがむかえに来るのを待ってるね。」

なんと双子は、妖精の国にいるカラベアのところに、連れていってもらえることになりました。
もう、二人とも大喜び。すぐさまベッドにもぐると、妖精たちの言いいつけどおり、目をつぶって、じーっと静かに待っています。

ドキドキ、わくわく。

二人とも、あたまの中がグルグルでいっぱいです。
はやく妖精たちが来ないかな?まだかな、まだかな?
そうやって待ち続けている間に、だんだん、ほんとうに眠たくなってしまいました。

ムム
「ねぇねぇ、はやく起きてよ二人とも。」

男の子
「ふぁーああ。あっ!ムム、ミミ。来てくれたんだ!」

妖精の声で目を覚ますと、あたりは森の中。双子は、大きな切り株の上で、眠っていたようです。
目の前には、車くらいの大きさでしょうか。木で作られた、小屋らしきものが立っています。

屋根には、えんとつがついており、子どもが、しゃがんでやっと通れるくらいの扉がついた、なんとも不思議な大きさをした家でした。

コンコン。カンカン。
家の中からは、時々、何かを叩くような音が聞こえてきます。

女の子
「あれ?わたしたち、いったい、いつの間にこんなところに来ちゃったの?」

ミミ
「ここは、夢の中にある妖精の国。」
「二人が眠って、夢を見ているうちに、ここに呼んだのよ。」

女の子
「わー、ここが妖精の国なのね。もしかして、あれ、あなたたちのお家?」

ミミ
「違うよ。ここは、カラベアのお家だよ。」
「カラベアのお家は大きすぎて、ムムとミミのお家は、もっとずっと小さいの。」

「ほら、あそこに見えるでしょ。」

男の子
「ほんとだ!かわいいお家だね。たしかにすごく小さくて、ぼくたちは入れそうにないや。」

ムム
「もー。そんなことより、はやくカラベアのとこへ行こうよ。」
「今夜、ひろったムムの歯を、宝石にしてもらうんだから。」

もう待ちきれないぞとばかりに、ムムはみんなを小屋の中へとせかします。
妖精たちよりも、ずっと体の大きい双子たち。
よいしょ、よいしょと体をまるめ、なんとか小さな扉をくぐりぬけました。

小屋の中で目にしたのは、ミミとムムが並んで立ったとしても、ひとまわりは大きい妖精の姿でした。
見た目は、子ぐまのような姿をしていますが、ミミやムムと違って、羽が生えてはいません。

コンコンコン


「あーあ。この前見つけた、犬の歯はあんまりだな。」

カンカンカン


「うーん。こっちの、うさぎの歯もしっくりこないし。」

ガサガサ、ゴソゴソ


「あれ?あのしろくまの歯は、どこにしまったっけ?」

その妖精は、なにやらぶつぶつ言いながら、机にむかって作業に集中していてます。
部屋の中に入ってきた、妖精と双子たちには、ぜんぜん気づく様子がありません。
ムムは、その妖精の耳元まで飛んでいって、声をかけました。

ムム
「おい、カラベア!今日も歯を見つけきたぞ!」

カラベア
「うわっ⁉なんだなんだ、ムムにミミか。やあ、こんばんは。」
「えーっ⁉どうしたの?人間なんか連れてきて。」
「他の妖精たちに見つかったら、大さわぎになっちゃうよ!」

ミミ
「しーっ、カラベア。大きな声を出さないで。」
「ミミとムムのともだちを連れてきたの。二人も歯を集めるのを、手伝ってくれたんだから。」

どうやら、この妖精がカラベアのようです。
いきなり現れた人間に、びっくりしているカラベアにむかって、双子はあいさつします。

男の子
「はじめまして、カラベア。」

女の子
「わたしたち、カラベアの歯の宝石が見たくて、ここに連れてきてもらったの。」

カラベア
「そうだったんだ。ミミとムムを、手伝ってくれてありがとう。」
「ほんとは人間には見せないんだけど、ミミとムムのともだちなら、特別だね。」
「よし!ぼくが作った、歯の宝石を見せてあげるよ。」

ムム
「おい、カラベア!そんなことより、はやくムムの歯を宝石にしてよ。」

せっかちなムムは、あいかわらずの調子で、はやくはやくと、持ってきた歯を差し出します。

カラベア
「えっ!ちょっと待って。これはすごい!」
「この色、この輝き。形だって最高だ。」

「こんなにきれいなものは、今まで見たことないよ!
ねぇねぇ。いったいこの歯、どこで見つけたの?」

ミミ
「それは、もともと二人の歯なんだよ。ほらこれ。ミミも、もらったんだから。」

興奮がおさえられないカラベアに、ほらほらと見せびらかすように、ミミが歯をとりだしました。
それを見て、ますますカラベアの目が輝いています。

カラベア
「わー。こんなにきれいな歯が、二本もあるなんて!」
「ねぇねぇ、君たち。どうしてこの歯は、こんなにきれいなの?」

女の子
「えっ⁉わたしたちの歯、そんなにきれい?」
「うーん、どうしてと言われても。、毎日食べたら歯をみがいているからかな?」

男の子
「いつも、お父さんに、きちんと歯みがきしなさいって言われるんだ。」
「ぼく、ほんとは歯みがき、あんまり好きじゃないんだけどね。」

カラベア
「なるほど歯みがきか。それで君たちの歯は、こんなにきれいなんだ!」
「そっかそっか。人間たちは、歯をいつもきれいに大事にしてるんだね。」

カラベア
「よし!ここのところ、いい材料がなくて困ってたんだけど、この歯なら最高の宝石ができるよ。」
「ムム、ミミ。この歯を使わせて。さっそく宝石作りに取りかからなきゃ!」

そう言いながら、カラベアはまた机にむかいました。
双子たちが初めて見る、歯の宝石づくりの始まりです。

ふきふき。ゴシゴシ。
まずは、歯の汚れ落とし。

ガリガリ。シュルシュル。
形を整え、長さをはかって。

おっとお次は、ねんどのようなものが出てきました。

こねこね。サクサク。ピタっ。
まるで、ねんど遊びのように、こねてけずって形をかえて。
最後に、そのまま歯をおしあてて。

あっという間に、きれいに輝いた歯と、それをのせる土台の飾りが、できあがりました。

カラベア
「ふー。あとは、飾りの部分を焼きあげてっと。
後からきれいにみがいて、仕上げに歯をはめこんだら完成だ。」

「ここから少し時間がいるから、しばらく待ってて、二人とも。」

そう言ってカラベアは、作ったばかりの飾りの部分を、暖炉のかまで焼きはじめました。

女の子
「カラベア、すごいね!宝石って、こうやって作るんだね!
あーあ、はやくできあがらないかなー。」

男の子
「ほんとほんと、宝石づくりって面白いね。
ねぇカラベア、どうして君は、歯の宝石づくりをしているの?」

ムム
「ムム知ってるよ!カラベアは、妖精の国で一番かっこいい、歯の王冠を作ろうとしてるんだ!」

ミミ
「宝石づくりは、その練習なんだよね。ミミとムムともだちだから、材料あつめを手伝ってるの!」

「カラベアは、いつもきれいな宝石を作ってくれるんだよ。
だからきっと、すっごくかっこいい王冠を作れるよ!」

みんなにほめられ、照れくさそうなカラベア。にっこり笑って、ふいと窓の外に目をやりました。
いつの間にか外は、ほんのり明るくなり始めています。

カラベア
「しまった!もうこんな時間になっちゃった!」
「他の妖精たちが、起きて来たら大変だ!」

ミミ
「たいへん、二人とも。はやくここから帰らなきゃ。」
「いそいで、お家の外に出て!」

とつぜん、あわてだす妖精たち。双子はせかされながら小さな扉をくぐり抜けました。
先に飛び出していたムムが、大きな切り株の上から、こっちに手招きしています。

ムム
「はやく、はやく。二人とも!ほらほら、こっちに横になって。」
「目をつぶって、じーっと待ってて。」

ムムにうながされ、切り株の上に、座った双子たち。
走ってみだれた息を整えるように、言いました。

女の子
「ふー、ふー。ちょっと待って。まだ、わたし歯の宝石を見てないのに。」

男の子
「はー、はー。こんなに、あわてて帰るの?カラベアの王冠のことも聞きたいよ。」

ミミ
「ダメ!いそいで帰らなきゃ。」
「人間にいじわるされた妖精たちは、二人を、お家に帰してくれないかもしれないもん。」

カラベア
「そうだよ、今はとにかく帰らなきゃ。」
「宝石も、王冠も完成したら、ぼくたちぜったい見せに行くからさ。」

女の子
「うん・・・わかった。ぜったい、ぜったい会いにきてね!」

男の子
「ミミ、ムム、カラベアありがとう!ぼくたち、むこうで待ってるからね!」

双子は妖精たちに手をふります。

二人ははっと息を止め、目をぎゅっーとつぶると、そのまま切り株に倒れこみました。
ふしぎなことに、お家のベッドとは違って、あっという間に意識はとろんと遠くなり、二人はそのままぐっすり眠りこんでしまうのでした。

5章(妖精とのお別れ後、おわり)

お母さん
「おはよう、二人とも。今日も気持ちのいい朝よ。ほらほら、起きて。」

女の子
「ふぁーあ。あっ、ミミは?ムムは?カラベアは?」

男の子
「んー。あれここは?ぼくたちのお部屋?やっぱり、妖精の国から帰って来ちゃった?」

お母さん
「どうしたの?ここは二人のお部屋で、ベッドの上でしょ。」

女の子
「そうだけど・・・、そうじゃない。わたしたち、妖精の国に行ってたの!」

男の子
「ほんとだよ!・・・ほら、枕元の歯もやっぱり無くなってる!」

お母さん
「あらあら二人とも、まさかおんなじ夢を見たの?」
「じゃあ、おまじないは成功ね。かわいい妖精さんに会えたかな?」

女の子
「うん。すごくかわいい妖精さんだったよ!」
「でも、カラベアの宝石はどうなったんだろう?またみんな来てくれるかな?」

男の子
「きっと来てくれるよ、約束したもん。ぜったい、きらきらの宝石ができてるよ。」
「ねぇねぇ、だけど、すごく楽しかったね!」

女の子
「うん。すっごく楽しかった!」

ゴシゴシ。シャカシャカ。がらがらっぺ。
双子たちは、今日も並んで、歯みがきします。

やさしく、きれいに、ていねいに。

だって、歯の妖精たちが宝石づくりをしているんだから。

おわり

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